電気工事に携わる中で「アース線の太さって、どうやって決まるの?」と疑問に感じたことはありませんか?実は、アース線の選定は“感覚”ではなく、使用電流や工事の種別に基づいた明確な基準が存在します。本記事では、最初に「結論と早見表」で全体像を押さえたうえで、アース線の役割や規程との関係、太さを決める3つの基準、素材による違いまでを詳しく解説します。
1. アース線の太さはどう決まる?【結論と早見表】
アース線(接地線)の太さは、なんとなく「太ければ安心」と思ってしまいがちですが、実は明確なルールがあります。
基本的には、使用する電気設備の「電流値」と、工事の「接地種別(A種・B種・C種・D種)」によって決まります。
例えば、分電盤に接続するアース線や、トランスに使うアース線など、どこに使うかによって分類され、それぞれに応じた太さが必要になるんです。
しかも、実務では「0.052 × In(定格電流)」という計算式を覚えておくと便利な場面もありますが、正式には内線規程に掲載されている「早見表」を使って選定することが求められています。
1-1. まず結論|使用電流と工事種別で決まる
アース線の太さを決めるとき、「使用するブレーカーや機器の電流値」×「規定の計算式」で大まかな数値を出すことができます。
その式が、よく使われる A = 0.052 × In です。ここでAはアース線の断面積(mm²)、Inはブレーカーなどの定格電流(A)です。
たとえば、100Aのブレーカーであれば「100 × 0.052 = 5.2」となり、直近上位のサイズである8mm²の銅線を選定します。
ただし、これはあくまで「目安」です。実際には、内線規程の各種早見表(A種=1350-4表、B種=1350-5表、C・D種=1350-6表)から選ぶことが正式な手順になります。
というのも、早見表では算定式の結果よりも太い線が指定されることもあり、施工や設計の安全基準として厳密に決まっているからです。
1-2. 太さ早見表(A種・B種・C種・D種別)
ここでは、実際に使用される4種類の接地工事に対する、アース線の選定ポイントを紹介します。
A種接地工事
A種は主に高圧電路に使用されます。たとえばキュービクル内のトランスやLBS、高圧機器に接続されるアース線ですね。
内線規程では、据え付け機器には5.5mm²の銅線を選定すれば問題ないとされ、避雷器や母線には14mm²以上が求められています。
B種接地工事
B種は、トランスの低圧側(200V〜400V)に使用されます。
ここでは、変圧器の容量(kVA)が基準になります。三相変圧器では1/3の容量で見て、例えば300kVAなら100kVA相当として選定。その場合は60mm²の銅線が適正とされます。
表にない大容量変圧器では、再び「A=0.052×In」の算定式を使って断面積を算出します。
C種・D種接地工事
C種とD種は、一般家庭や建物内の分電盤、機器などに広く使われる接地です。
とくにD種は最も使用頻度が高く、内線規程1350-6表を基に選定します。
たとえば63Aのブレーカーでは、0.052 × 63 = 3.276 から算出されますが、表では5.5mm²を選ぶ必要があります。
このように、実際の計算結果よりも大きめのサイズが必要になるケースがあるため、注意しましょう。
1-3. 最低限覚えておきたいサイズ目安
アース線の選定は難しそうに見えて、実はいくつかの代表的な数値だけ覚えておくと、現場でもかなり対応できます。
- A種:高圧機器 → 5.5mm²、避雷器や母線 → 14mm²
- B種:100kVA級トランス → 38mm²、200kVA級 → 60mm²
- C・D種:小規模分電盤(〜60A)→ 5.5mm²、100A以上 → 8mm²〜14mm²
また、アース線を複数共用する場合(たとえばA種とD種を1本の線で兼ねるケース)には、それぞれのうち太い方のサイズを選ぶことも忘れてはいけません。
そして、アース線の「幹線」となる接地母線や接地極線については、共用される中で一番太いサイズを基準に選定します。ただし、接地極線に関しては最大14mm²までに抑えてもよいという緩和規定もあるので、現場状況に応じて判断しましょう。
1-4. まとめ
アース線の太さは、「使用する電流」と「接地の種類」によって変わります。
原則としては内線規程の早見表から選定するのがルールです。ですが、A=0.052Inという式を覚えておくと、実務での計算や見積もりがスムーズに進みます。
A種は高圧設備に、B種はトランスの二次側に、C種・D種は一般設備に使われ、それぞれで基準となる太さが明確に定められています。
また、接地母線・接地極線・共用アース線などについても、それぞれの最も厳しい条件に合わせた太さを選ぶ必要があります。
安全で確実な電気設備工事を行うためには、適切なアース線の選定がとても重要です。しっかりと規程を理解して、設計・施工に活かしていきましょう。
2. アース線とは何か?|役割と重要性を再確認
アース線(接地線)は、電気設備にとって非常に大切な保安機能を担っています。
目に見えないけれど、万が一の事故やトラブルから人や設備を守る、いわば「最後の砦」と言える存在です。
電気回路に異常が起きた際、その異常な電流を地面へ安全に逃すために必要であり、特に感電や火災を防止するための仕組みとして不可欠です。
この章では、アース線の必要性とその仕組み、さらに接地工事の種類について分かりやすく解説していきます。
2-1. なぜアースが必要なのか?
電気機器や配線に異常が起きると、本来流れるべきではない電流が金属部分に流れてしまうことがあります。
このようなとき、もし人が触れると感電する危険性が非常に高くなります。
また、漏電によって電線や設備が発熱し、火災の原因になることも考えられます。
こうした事態を未然に防ぐのが「アース」の役割です。
アースを設けることで、漏れた電流を抵抗の少ない地面に流す経路ができ、安全性が格段に高まります。
特に家庭用の電化製品では、冷蔵庫や電子レンジなど、金属製の筐体を持つ製品にアース端子が設けられていますね。
これは筐体に万が一電流が漏れた場合でも、人ではなく地面に流れるようにするためなのです。
2-2. 感電・火災を防ぐ接地のメカニズム
接地の基本的な仕組みは、電気が流れやすい「逃げ道」を作ることにあります。
もし電気が漏れたとき、アース線を通じて地中に打ち込まれた「接地極」へと電流が流れ込みます。
このとき、重要なのはアース線の太さです。
細すぎると、大きな電流が流れた際に電線自体が過熱し、かえって危険を生じる恐れがあります。
だからこそ、電気設備技術基準や内線規程ではブレーカーの定格電流や機器の種別ごとに、接地線のサイズが明確に定められているのです。
たとえば、100Aの主幹ブレーカーを接続する場合、「A=0.052×In」の式から算出される断面積に基づき、直近上位の8sq(スケアミリメートル)のアース線が選ばれます。
このように、接地は電気を地面へ逃がすだけでなく、正しくサイズ設計することが安全確保には不可欠です。
2-3. 接地工事の分類と違い(A〜D種)
アース工事には、大きく分けて「A種」「B種」「C種」「D種」の4種類が存在します。
それぞれに適用される設備や電圧、必要な接地抵抗値などが異なるため、正しい選定と施工が求められます。
A種接地工事
高圧機器に適用される接地方式で、電気室やキュービクル内の高圧トランスや開閉器などが対象です。
電圧が高くなるため、事故が起きたときの影響も大きく、必ず規定に従った設計が必要です。
一般的に5.5㎟〜14㎟程度のアース線が使用されます。
B種接地工事
トランスの低圧側に施される接地方式です。
使用される接地線の太さは、変圧器の容量に応じて選定されます。
たとえば、単相100kVAのトランスなら38㎟、三相300kVAなら60㎟程度の接地線が選ばれることになります。
C種接地工事
漏電ブレーカーが設置された回路に適用され、住宅や小規模店舗などでよく使われる形式です。
分電盤や電灯分岐回路などに接続され、事故が発生した場合に感電や火災を防ぎます。
D種接地工事
こちらは最も一般的な接地方式で、各電気機器や分電盤ごとに行われます。
たとえば、家庭用コンセントで見られる緑色のアース線は、D種接地に分類されるものです。
接続される機器が増えるほど、電流も大きくなるため、接地線の太さも適切に見直す必要があります。
このように、接地工事は使用する機器や回路の種別、電圧、ブレーカー容量によって分類されており、正しく理解することが設計や施工、保守管理において非常に重要です。
なお、A種とD種を共用する場合には太い方のサイズ(D種)に合わせるのが原則です。
安全性と信頼性を高めるためにも、正しい分類とサイズ選定が不可欠だと覚えておきましょう。
3. アース線の太さを決める3つの基準
アース線の太さを決めるとき、いきなり「何mm²にしようかな?」と考えてしまう方も多いのですが、実は明確な選定基準が存在しています。この章では、その中でも特に重要な3つの基準について詳しく解説します。算定式「A = 0.052 × In」、内線規程の選定表(1350-3〜6表)、そしてそれらの数値が一致しないときの対応方法です。これらを正しく理解することで、現場での混乱を減らし、安全で確実な施工につながります。
3-1. 算定式「A = 0.052 × In」の意味と限界
まず、アース線選定の基本中の基本といえば「A = 0.052 × In」の式です。この式で出てくる「A」はアース線(銅線)の断面積(mm²)、「In」はブレーカーの定格電流(A)を表しています。たとえば、定格電流が100Aのブレーカーであれば、100 × 0.052 = 5.2となり、直近上位の8mm²のケーブルを選ぶことになります。
この算定式はとても便利で、現場でも多くの電気工事士が活用しています。なぜなら、簡単な計算だけで太さの目安を出せるからです。9割方この計算式で問題ないケースが多いとも言われています。
しかし、この式には限界があります。というのも、この式はあくまでも内線規程で定められている選定表の基礎になっているに過ぎません。内線規程では、実際には「算定式ではなく、表から選ぶことが原則」とされています。つまり、式はあくまでも「裏付け」にすぎず、設計や検図時には表による選定が推奨されるのです。
3-2. 内線規程表(1350-3〜6表)の使い方
次に紹介するのが、内線規程の選定表です。この表はA種・B種・C種・D種など接地の種類ごとに分かれており、接続対象や電源の種類によって細かく選定基準が定められています。
たとえば、C種またはD種の場合は「1350-3表」、A種なら「1350-4表」、B種なら「1350-5表」を使用します。各表には、ブレーカーの定格電流や変圧器の容量などに応じた適切なアース線の太さが一覧で記載されているため、非常に実用的です。
例えば、D種接地で63Aのブレーカーの場合、式では 63×0.052=3.276となるため、直近上位の3.5mm²が導かれます。しかし、選定表では5.5mm²が推奨されています。このように、表の方がより保守的な設計になる傾向があるため、表による確認は非常に重要です。
また、B種のように変圧器に接続する接地では、定格容量をもとに選定します。例えば、単相100kVAの変圧器には38mm²、三相300kVAであれば定格容量を3で割って100kVA相当とし、同じく38mm²が選定されます。
3-3. 「式」と「表」で数値がズレる理由と対応方法
さて、ここで気になるのが「式で計算した値」と「表で選んだ値」にズレが出ることです。実際の現場では、「式ではこのサイズだったのに、表ではもっと太くなるじゃん!」と戸惑うことがよくあります。
その理由は、式は理論上の最低限のサイズを示しているのに対し、表はより安全性や経年劣化、施工条件などを加味して設計されているからです。これは、保守的な安全設計という意味でも非常に大事な考え方です。
では、ズレが生じたときはどうするのが正解かというと、必ず表のサイズを優先して選定するのが基本となります。たとえば、A = 0.052×In で14mm²が出ても、表で22mm²と記載されていれば、迷わず22mm²を選定すべきです。
また、図面チェックを行う上司や、細かい仕様を確認する施主から、「なぜ表じゃなくて式で選んだの?」と指摘を受けることもあります。トラブルを避けるためにも、まずは表から選定し、式は参考程度に使うという考え方を覚えておくと安心です。
3-4. まとめ
アース線の太さを決めるには、「A = 0.052 × In」の算定式と、「内線規程1350-3〜6の選定表」の両方を理解しておくことが欠かせません。式は計算の手間が少なく便利ですが、あくまでも表の補足に過ぎません。
基本的には内線規程の表から選定することが推奨されており、安全性や規定との整合性を考えると表を優先するべきです。もし、式と表でズレが生じたら、迷わず表の値を選びましょう。それが、トラブルのない安全な電気設備設計への第一歩になります。
4. アース線の材料と種類|銅線・アルミ線で何が変わる?
4-1. 銅線 vs アルミ線|太さ・導電率・コスト比較
アース線の材料として主に使われているのが「銅」と「アルミ」です。どちらを使うかによって、必要な太さ・導電率・コストが大きく変わります。
まず、導電性能で見ると、銅の方が圧倒的に優れています。一般的に、同じ電流を流すために必要な太さは、アルミの方が約1.6倍太くする必要があると言われています。例えば、銅線で14mm²が必要な場合、アルミ線では約22mm²が必要になります。これは、導電率の違いによるものです。
コスト面では、銅はアルミに比べて材料費が高くなりやすい傾向にあります。ただし、同じ導電性能を確保するために太くなるアルミ線は、取り回しがしにくく、施工に手間がかかるという課題もあります。
また、長期的な安定性の観点でも、銅線の方が酸化しにくく、接続部の信頼性が高いとされており、接地線としては信頼性重視で銅線が選ばれる場面が多くあります。
このように、導電率・コスト・施工性のバランスを見て、どちらの素材を選ぶかを決めることが大切です。
4-2. なぜ14mm²や22mm²が基準として使われるのか
「14mm²」や「22mm²」という太さのアース線は、実は現場で非常によく使われている標準サイズです。これは、接地線の選定において基準となる「内線規程」の規定に基づいています。
例えば、接地極線や母線などに使う接地線については、最大でも銅14mm²、アルミ22mm²までの使用でよいという明確な基準があります。これは、「この太さ以上にしても安全性能の向上が見込めない」という根拠に基づいて、無駄に太い線を使わずに済むようになっているのです。
特に母線や接地極線は建物全体の漏れ電流が集まる重要な部分なので、一番太い接地線に合わせる必要があります。ただし、内線規程ではこの部分について「14mm²または22mm²まで」と制限をかけており、実際に多くの設計でこのサイズが使われています。
つまり、14mm²や22mm²というサイズは、安全性・コスト・施工性のバランスが最も良い「現場最適解」として広く使われているのです。
4-3. 使用現場による素材の使い分け方
アース線の素材は、使用する現場の条件によって銅線かアルミ線かを選ぶ必要があります。たとえば、可とう性が求められるような場所や、精密機器に接地する場合には、安定性と導電性能に優れた銅線が使われます。
一方で、長距離配線やコストを重視した設備では、アルミ線が選ばれることもあります。アルミは軽くて安価ですが、接続部での酸化による接触不良を避けるため、圧着端子や防錆処理などの施工品質に十分な注意が必要です。
また、接地母線や接地極線などの「固定された箇所」では、素材にかかわらず規定された太さ(銅14mm²、アルミ22mm²)を使用すれば、法令上は問題ありません。ただし、アルミ線を使う場合は14mm²を超える部分のみ22mm²にすればよいといった規程の緩和条件もあるため、コストダウンを意識する現場では積極的に活用されます。
このように、素材の使い分けは導電性能・耐久性・施工性・コスト・現場条件のバランスを総合的に見て決定されます。最終的には「安全性を確保しつつ、効率よく設計・施工できるか」が鍵になります。
4-4 まとめ
アース線に使われる素材は、主に銅とアルミの2種類です。銅は導電性が高く、信頼性の面でも優れていますが、コストが高くなりやすい傾向にあります。アルミは安価で軽量ですが、太さや施工性、接続の信頼性に注意が必要です。
「14mm²(銅)」「22mm²(アルミ)」といったサイズは、内線規程に基づく標準的な最大太さとして広く採用されています。これは、必要十分な性能を満たしながらコストと安全性を両立するために最適化された値です。
どの素材を選ぶかは、現場ごとの安全要件や施工条件、コストバランスを踏まえて判断する必要があります。迷った場合は、導電性能と安定性に優れた銅線を基本として考え、特殊な事情がある場合に限りアルミ線を選定するのが現実的です。
5. 【工事種別別】アース線の太さ選定ガイド
アース線(接地線)の太さを決めるときは、工事の種類ごとに基準が異なります。
「とりあえず0.052×In(ブレーカー定格電流)」という式を覚えている方も多いかもしれませんが、それはあくまで選定表の根拠にすぎません。
実務では内線規程に準拠した「接地種別ごとの選定表」から選ぶことが必須となります。
ここでは、A種・B種・C種・D種の接地工事における接地線の選定方法について、工事現場で役立つ具体的なサイズ例や図面上の考え方を交えて詳しく解説します。
5-1. A種接地工事|高圧機器用の基本サイズ
A種接地工事は、キュービクルや電気室内の高圧トランス、LBS(負荷開閉器)、避雷器などの高圧設備に接地を施す工事です。
ここで使用される接地線の太さは、内線規程の1350-4表に従って選定します。
実務的には機器に直接接続する接地線は5.5㎟、避雷器や接地母線などには14㎟を使用するのが一般的です。
これは建築設備設計基準でも示されており、原則としてこのサイズを用いれば問題ありません。
ただし、可とう性が必要な箇所(配線が動く可能性がある場合)は別途検討が必要となります。
例:
・高圧トランス → 5.5㎟
・高圧避雷器 → 14㎟
・接地母線 → 14㎟
5-2. B種接地工事|トランス容量から選ぶ
B種接地はトランスの低圧側に行う接地工事で、接地線の太さは変圧器の容量により決まります。
内線規程1350-5表を使用して選定しますが、単相か三相かで見方が異なります。
単相変圧器ならそのままの定格容量から、三相変圧器であれば定格容量÷3で求めた「一相分の容量」から選定します。
例えば、300kVAの三相変圧器なら300÷3=100kVAとして、該当する太さを選定します。
サイズ選定例:
・単相100kVAの変圧器 → 表より38㎟
・三相300kVAの変圧器 → 100kVAとして38㎟
・単相500kVAで表に無い場合 → 定格電流値を算出して「A=0.052×In」から求める(例:2381A→150㎟)
このように、表にない大容量変圧器では電流値を計算し、0.052を掛けて適正なサイズを導き出す必要があります。
5-3. C種・D種接地工事|分電盤や機器への接地
C種・D種接地工事は、特にD種が分電盤や一般的な機器に使われる最も身近な接地工事です。
これらは内線規程1350-6表を使って、接続する機器のブレーカー定格電流に基づいて選定します。
例えば、63Aのブレーカーが接続される場合、「63×0.052=3.276」となるため、直近上位の5.5㎟が表での指定となります。
式で求めると3.5㎟で十分と思われがちですが、実際は表の方が大きめのサイズとなることがあるため、必ず選定表に従うようにしましょう。
サイズ選定例:
・63Aのブレーカー → 5.5㎟
・225Aのブレーカー → 表では22㎟(式では14㎟)
このように、D種は現場で最もよく使われるため、表をしっかり確認して選ぶことが重要です。
5-4. 各種の施工例と配線図から見る実務視点
実際の現場では、設計図だけでなく配線図や施工図を見ながら接地線のルートやサイズを決定していきます。
特に共用接地線(例えばA種とD種を兼ねる線)では、どの種類として使用するかによってサイズが変わってきます。
共用線を設計するときは用途が明確な部分にはその種別の選定方法を適用し、母線などどちらにも使用する可能性がある場合はより太いサイズを選定します。
実務でよくあるケース:
・A種とD種を兼ねた母線 → D種として選定(サイズが太くなるため)
・接地母線(幹線)は、分岐接地線のうち最大サイズを選定
・接地極線は母線と同じ、ただし最大でも14㎟に緩和可能(D種・B種の場合)
配線図での注意点:
・各ブレーカー容量を見て、それぞれの接地線を選定する
・接地端子盤や母線には、最も太い接地線サイズを流用する
・図面に明記がない場合でも、用途を考慮して設計段階で判断することが重要
5-5. まとめ
アース線の太さは「A=0.052In」だけでは決まらず、内線規程の接地種別ごとの選定表から選ぶのが原則です。
・A種(高圧設備) → 5.5㎟または14㎟が基本
・B種(トランス低圧側) → 定格容量または定格電流値から選定
・C・D種(分電盤・一般機器) → ブレーカー容量から選定表に従う
・共用線や母線 → 使用目的に応じてより太いサイズを選定
現場での図面読みや選定作業では、表と実測を両方見ながら判断する姿勢が求められます。
安全性と施工品質を両立するためにも、内線規程の表はしっかり理解して活用しましょう。
6. 接地母線・接地極線の太さはどうする?
6-1. 母線のサイズ=分岐中で最も太い接地線
接地母線は、建物全体のアースの幹線とも言える重要な配線です。接地端子盤から始まり、各分岐回路へと接地線を供給する中枢のような役割を果たします。この母線の太さは、各分岐で使用される接地線の中で最も太いものに合わせるのが基本です。
例えば、分岐Aに38mm²、分岐Bに22mm²、分岐Cに14mm²の接地線が使われているとすれば、接地母線には38mm²のケーブルを採用します。これは、内線規程1350-13の中でも明記されている考え方で、「一の接地極を共用する接地線の共通母線の太さは、接続する中で最大の太さに準ずる」とされています。
注意したいのは、全ての分岐の電流を足し合わせてサイズを求めるわけではないという点です。あくまで「最大値の線に合わせる」というルールですので、誤って計算で大きな太さを出さないようにしましょう。
6-2. 接地極線の緩和規定(最大14mm²)とは?
接地極線とは、地中に打ち込まれた接地極(アース棒など)と、設備のアース端子盤をつなぐ線のことです。ここは、建物全体の漏れ電流が最後に流れ着く重要な部分ですが、実は太さに緩和規定があります。
内線規程1350-5.4や1350-3によれば、埋込みまたは打込みタイプの接地極を使用していて、かつ他のアース設備と接続されていない場合に限り、接地極線は最大で14mm²の銅線まで細くすることが認められています。これは、設備全体の安全性を維持しながら、材料費や施工性を改善するための合理的な措置です。
たとえば、ある設備の母線サイズが22mm²であっても、接地極線に限っては14mm²の銅線で済ませることができます。ただし、これは他の接地システム(B種や金属体など)と連絡しない専用の接地極であることが前提です。もし他の回路と接続されている場合は、母線と同じ太さを守らなければいけません。
したがって、接地極線の選定では「他の接地と連絡していないこと」と「母線サイズが14mm²を超えているか」の2点を確認しながら、緩和規定をうまく活用しましょう。
6-3. 内線規程の引用条文と解釈
接地母線や接地極線に関するルールは、内線規程という業界のバイブルに明確に定められています。たとえば、接地母線に関しては1350-13条で次のように記されています。
「一の接地極を共用する接地線の共通母線または接地専用線の太さは、共用する接地極と接地を必要とする個々のものより選定した太さのもののうち、最大の太さのものを使用することができる。」
この条文は、母線が各回路の最大サイズに合わせればよいことを示しています。つまり、いくつも太さの異なる接地線がある中で、最も太い1本に準拠すればよいという合理的な考え方です。
一方、接地極線については1350-5.4(B種)および1350-3(C・D種)に緩和措置が記されています。「打込み接地極を使用し、他の目的の接地や埋設金属体と接続しない場合は、14mm²の銅線または22mm²のアルミ線を超える部分について、それ以上太くする必要はない」としています。
このように、内線規程では実務に即した柔軟な考え方が導入されており、最大限の安全性とコストバランスの両立が図られています。施工者や設計者は、単に数式だけでなく規程の意図を理解することが、より質の高い設計につながるといえるでしょう。
6-4. まとめ
接地母線の太さは、各分岐接地線の中で最も太いものに合わせて選定する。接地極線も同様に母線と同じ太さが原則だが、緩和規定により最大14mm²までに抑えられるケースもある。この条件は、他の接地設備や金属体と接続しない独立した打込み接地極であることが必要である。
さらに、内線規程ではこうした設計判断の根拠が明確に示されており、ルールと柔軟性を両立させるための条文が数多く設けられている。接地線選定においては、こうした規定と現場の実情をバランスよく理解しておくことが、安全かつ効率的な施工への近道となる。
7. アース線サイズの計算例で理解を深める
アース線のサイズ選定は、電気設備の安全性と信頼性に直結する大切なポイントです。
特に業務用の大規模な設備では、単なる「感覚」ではなく、しっかりとした根拠と計算に基づいて決定する必要があります。
ここでは、単相100kVAや三相300kVAといった具体的なケースを用いて、実際にアース線サイズを導き出す手順を確認してみましょう。
また、表に記載のない特殊な容量の場合の対処法、家庭用機器ごとのサイズ感なども併せて紹介します。
7-1. 単相100kVA・三相300kVAの例で実践
たとえば、変圧器の二次側に接続するB種接地線のサイズ選定を行う場合、内線規程1350-5表を参考にするのが基本です。
この表では、単相変圧器であれば容量そのまま、三相変圧器であれば容量を3で割って「一相分の容量」として判断します。
では、単相100kVAの場合を見てみましょう。
内線規程の表によると、100kVAは「125kVAまで」の欄に該当し、200V級であれば38㎟のアース線が必要になります。
これが基本的な選定方法です。
次に、三相300kVAのケースです。
300kVA ÷ 3 = 100kVA と換算されますので、こちらも「125kVAまで」の枠内となり、同じく38㎟のサイズで問題ありません。
一見、三相のほうが大きな設備に見えますが、アース線の選定では一相分で判断するという点がポイントです。
このように、変圧器の接地線を選ぶ際は、表に照らし合わせるだけでなく、「単相か三相か」で容量の取り扱いが異なることをしっかりと理解しておくことが大切です。
7-2. 表に載っていないケースの対処法
ときには、規定表に記載のない大容量の変圧器や特殊なケースに出会うこともあります。
そのような場合は、算定式 A=0.052×In を活用しましょう。
ここで「A」はアース線の断面積(㎟)、「In」は機器の定格電流(A)を意味します。
たとえば、単相500kVAの変圧器を例にしてみます。
定格電流 In を求める式は次のとおりです。
In=(500 × 1000) ÷ 210 ≒ 2381A
この電流値に対して、A=0.052 × 2381 ≒ 123.8㎟
この数値の直近上位のケーブルサイズは150㎟となるため、150㎟のアース線を選定するのが適切です。
重要なのは、あくまで計算値は目安であり、実際の設計や施工では「表」と「計算」の両方を照らし合わせ、より安全側に倒した選定が推奨されるという点です。
また、接地線には耐熱性や柔軟性など、施工現場によって考慮すべきファクターもあるため、サイズだけでなく材質選びも併せて行うことが望ましいでしょう。
7-3. 家庭用ブレーカー・設備別シミュレーション
家庭用の分電盤やブレーカーまわりでも、アース線は欠かせません。
こちらは主にD種接地工事に該当し、分電盤に設置される主幹ブレーカーの定格電流に基づいてアース線を選定します。
たとえば、100Aの主幹ブレーカーがある場合、100 × 0.052 = 5.2
この値に対して直近上位のサイズは 8㎟となります。
また、ブレーカーが63Aであれば 63 × 0.052 ≒ 3.276
この場合は 5.5㎟が選定されます。
このように、実際の家庭用設備でも、基本式「A=0.052×In」を用いることで合理的なサイズ選定が可能です。
ただし、家庭用といえども例外はあります。
共用接地や特殊機器がつながっている場合、ブレーカー定格だけでは判断できないケースもあるため、実際には内線規程の表も確認する習慣をつけましょう。
ちなみに、最近の新築住宅やオール電化住宅では主幹ブレーカーが125Aや150Aといった高めの設定になっていることもあります。
この場合、アース線は14㎟または22㎟といった太めのものが必要になるケースもあるため注意が必要です。
7-4. まとめ
アース線サイズの選定には、表と計算式の両方が活用されます。
特に、変圧器や分電盤といった機器に応じた選定方法を理解しておくことは、施工ミスの防止や安全性確保の面でも非常に重要です。
・単相100kVA・三相300kVAなどのケースでは、内線規程表で38㎟を選定
・表にない大容量の場合は「0.052×In」で算出し、直近上位のサイズを選ぶ
・家庭用ブレーカーでも、100Aなら8㎟、63Aなら5.5㎟と具体的に把握しておくと便利
・常に表と算定式をセットで使い、安全側に倒した判断を心がけること
これらの知識を身につけておくことで、現場で迷うことなく、確実なアース線選定ができるようになります。
ぜひ一度、自宅や職場の分電盤周りのアース線を確認してみてはいかがでしょうか。
8. 共用アース線(AD共用)の太さはどう選ぶ?
共用アース線、特に「AD共用」として設計される接地線は、現場での判断ミスを招きやすい箇所です。なぜなら、同じ接地線でも「どの種類の接地工事として使用するか」によって選定基準が大きく異なるからです。ここでは、使用対象ごとの種別判断から、母線の基本的な選定ルール、そして混乱しやすいケースまでを丁寧に解説していきます。電気設備の安全性を確保するためにも、正しい知識でしっかりと対応しましょう。
8-1. 使用対象によって「A種 or D種」で判断
AD共用のアース線は、よく見ると同じ線路で高圧機器と低圧機器の両方に接地されていることがあります。しかし、ここで重要なのは「どの機器に使用されるのか」によって、種別(A種 or D種)を明確に分けて選定する必要があるという点です。
たとえば、高圧トランスやキュービクル内の高圧機器に接地される部分はA種接地として扱います。この場合は、内線規程1350-4表に従って、最小でも銅線5.5㎟以上が必要です。一方で、低圧分電盤や制御盤などの機器に接地される部分はD種接地として扱われ、こちらは1350-6表に従い、電流値に応じたサイズ選定が必要となります。
つまり、AD共用であっても、接続される機器の種類ごとに「どちらの種別の基準で選定するか」を決めることが先決なのです。
8-2. 共用母線は太い方に合わせるのが基本
では、A種にもD種にも分岐されるような共用母線(AD共用の幹線)の場合はどう選べばよいのでしょうか?この場合は、内線規程1350-14に基づき、「共用する接地線のうち最も太いものに合わせて母線を選定する」というルールがあります。
たとえば、A種の部分で5.5㎟が必要で、D種の部分では22㎟が必要だったとします。このとき、共用母線はD種の22㎟に合わせるのが原則です。なぜなら、共用母線には両方の電路からの漏れ電流が流れる可能性があるため、より大きな電流を安全に流せるサイズでなければならないからです。
決して「平均値」や「見た目」で選定してはいけません。最大のサイズに準拠するのが、共用母線の基本ルールです。
8-3. 現場で混乱しやすいケースと対応策
AD共用アース線は非常に便利な一方で、現場でトラブルや誤解が発生しやすいのも事実です。以下のようなケースでは、特に注意が必要です。
■ケース①:種別のラベリングがない
AD共用線がどの種別で使用されているのか明示されていない場合、現場作業者が勝手にD種だと思い込んで細い線を選定してしまうことがあります。このような場合は、設計図や配線図に「この区間はA種」などの明記をしておくことが有効です。また、母線については太い方に合わせる旨の注記も追加しておきましょう。
■ケース②:変更工事による種別の混在
最初はD種だけで設計されていたものの、後から高圧機器が追加され、A種接地が必要になることがあります。このとき、既存の接地線が細すぎると流れる電流に耐えられず法令違反になる可能性があります。追加工事の際は全体の接地系統を見直し、母線のサイズを再計算する必要があります。
■ケース③:施工会社間での認識ズレ
設計者と施工者、または一次・二次下請け間で、「AD共用線」がどちらの種別なのかで意見が食い違うケースもあります。これを避けるためには、工事開始前の協議・共有書類(仕様書、施工図)で接地種別とサイズを明記しておくことが非常に大切です。
8-4. まとめ
AD共用アース線の選定は、一見すると簡単そうに見えて細かいルールや注意点が多く存在します。ポイントは次の3点です。
- 使用機器の種別に応じてA種・D種を判断すること
- 共用母線は必ず太い方の基準に合わせること
- 混乱しやすい現場ではラベリングや仕様明記などの予防策を徹底すること
接地線は、万一の漏電・地絡のときに人命と設備を守る最終防衛ラインです。そのため、たとえ共用であっても安易なサイズ選定は禁物です。適切な判断と正確な設計・施工によって、安全で信頼性の高い電気設備を実現しましょう。
10. よくある質問(FAQ)と現場での判断ポイント
10-1. Q:計算式と表、どちらを優先すべき?
接地線(アース線)の太さを決める際に、多くの人が気になるのが「A=0.052×In」という計算式と、内線規程に記載されている選定表のどちらを優先すべきかという点です。
結論から言えば、内線規程の選定表を優先するのが原則です。
というのも、この計算式は選定表の根拠に過ぎず、実際に現場で使うサイズは表から選ぶよう規定されているからです。
たとえば、D種接地で63Aのブレーカーを使用する場合、式では「63×0.052=3.276」で3.5㎟が選定されそうですが、内線規程1350-3表では5.5㎟とされています。
このように、計算式と表ではサイズが異なることがあるため、表に従ったほうが確実かつ安全です。
ただし、変圧器容量が選定表に記載されていないような特例的なケースでは、補助的に計算式を使うのもひとつの方法です。
現場の確認や設計変更がある場面では、「式で算出したサイズでは小さい」と指摘されるケースもあるため、トラブルを未然に防ぐなら表を優先しましょう。
10-2. Q:アース線を流用しても良い?
現場でよくあるのが、「A種とD種のアース線を共用しても問題ないの?」という疑問です。
結論から言えば、共用は可能ですが、使用目的に応じた選定方法を適用する必要があります。
たとえば、AD共用の接地線があり、それが高圧機器(トランスなど)に接続されるならA種、低圧機器(分電盤など)に接続されるならD種として扱います。
このように、どの機器に使われるかで選定の基準が変わってくるため、設計時には使用目的を明確にすることがとても重要です。
また、接地母線のように複数系統が共用される場合は、接続される接地線のうち最も太いサイズに合わせて選定するのがルールです。
たとえば、分電盤Aが22㎟、Bが14㎟、Cが5.5㎟という構成で共用される場合、母線は22㎟を選定します。
このように、共用すること自体は問題ありませんが、目的別に正しい根拠でサイズを決定することがポイントです。
安易に「同じ線があるから使い回そう」とすると、施工ミスや安全上のトラブルにつながる可能性があります。
10-3. Q:接地抵抗とアース線の太さは関係ある?
接地工事でよく混同されがちなのが、「接地抵抗の値」と「アース線の太さ」の関係です。
この2つは密接に関係していそうで、実は別の要素です。
接地抵抗とは、接地極(アース棒など)と大地との間の電気的な抵抗値のことを指します。
この値は、地盤の性質やアース棒の本数・深さなどによって変わるもので、線の太さそのものとは直接関係がありません。
一方、アース線の太さは、接地される機器の電流容量に基づいて、主に内線規程の選定表から決定されます。
つまり、どんなに太いアース線を使っても、地面との接続点である接地極の抵抗値が高ければ、地絡電流を安全に逃がすことができません。
たとえば、D種接地工事では接地抵抗を10Ω以下に抑えることが求められていますが、この値は主に接地極の設置状況で決まります。
アース線が太くても、地中の条件が悪ければ規定値を超えてしまうこともあります。
したがって、アース線の太さと接地抵抗はそれぞれ別の視点で最適化すべき項目です。
太さは「電流容量」、抵抗は「地面との接触特性」。
それぞれを個別に管理・測定することで、安全で確実な接地工事が実現します。
10. よくある質問(FAQ)と現場での判断ポイント
10-1. Q:計算式と表、どちらを優先すべき?
この疑問は非常に多く、実務でも迷いやすいポイントのひとつです。
接地線の太さを決める代表的な計算式「A=0.052×In」は、確かに一発で概算できる便利な方法です。
ここでいう「A」は銅線の断面積(mm²)、「In」はブレーカーの定格電流(A)を意味します。
たとえば、主幹ブレーカーが100Aの場合、
100 × 0.052 = 5.2 → 直近上位の8mm²を選ぶというように使います。
ただし、内線規程では明確に「選定表から選ぶこと」と定められています。
つまり、算定式はあくまでその表の「根拠」に過ぎず、実際に使う際は規定表を優先するのが原則です。
現場で式だけを使っていると、検図担当やクライアントから指摘されるケースもあります。
たとえば、63Aのブレーカーでは計算上3.5mm²ですが、表では5.5mm²になるなど、差異が出ることもあるからです。
まとめると、「計算式はあくまで目安。正式には選定表を使う」という考え方が正解です。
ただし、簡易的な現場判断やラフプランの段階では、算定式を活用して素早く概算するのも実務的にはよくある運用です。
10-2. Q:アース線を流用しても良い?
これは既存設備の更新や増設の場面でよくある悩みです。
結論から言うと、共用(流用)は可能ですが、条件があります。
たとえば、A種とD種の接地線を同じ線で共用するケースがよくあります。
この場合、使用する対象に応じて、「どの種別として使うか」でサイズが決まります。
つまり、高圧機器に使うならA種の選定基準、低圧分電盤で使うならD種の基準になります。
また、共通の母線を使う場合は、「いずれにも使う可能性がある」ため、より太いほうの基準に合わせて選定する必要があります。
さらに、接地極線や母線を流用する場合も、「共用される回路の中で最も太いサイズ」に合わせることが内線規程で定められています。
つまり、複数の回路から接地が集中する場所では、それぞれの接地線のうち最大の太さを基準にするということです。
要点としては、アース線の共用は可能。ただし、必ず最も厳しい条件(太いサイズ)を基準に判断する必要があるという点に注意しましょう。
10-3. Q:接地抵抗とアース線の太さは関係ある?
この質問もよく受けますが、基本的には「接地抵抗」と「アース線の太さ」は別の概念です。
アース線の太さは、地絡電流を安全に流すために必要な容量(断面積)から決まります。
それに対して接地抵抗は、地面(アース)の電気的な抵抗値であり、主に接地極の性能や設置状況に依存します。
例えば、接地抵抗が高い場合、電流が十分に大地へ逃げられないことになりますが、それをアース線の太さで補うことはできません。
そのため、接地抵抗を改善するには、接地極の増設や埋設方法の工夫が必要になります。
ただし、全体の安全性を考えると、接地抵抗が高い場合には、万が一に備えてアース線を太めにしておくという判断が現場では取られることもあります。
これは規程ではありませんが、設計者のリスク回避としての工夫と言えるでしょう。
まとめると、「接地抵抗の改善は線の太さではできないが、安全性確保のために太めにする選択は現場判断としてあり得る」という位置付けです。
11. まとめ|アース線の太さを正しく選び、安全で効率的な電気設備を
11-1. ポイントは「種別+定格電流+規程表」
アース線の太さを正しく選ぶためには、まず「接地工事の種別」を正確に理解することがスタート地点となります。A種、B種、C種、D種といった接地工事の種別ごとに、適用される規程や選定方法が異なるため、ここを誤ると全てがずれてしまいます。
例えば、A種接地線は高圧機器用であり、主に5.5㎟または14㎟の銅線が使われます。一方、B種接地線は変圧器の二次側で使用され、変圧器の定格容量(kVA)に基づく選定表が用いられます。さらにC種・D種については、分電盤や機器への接地であり、ブレーカーの定格電流に基づいた1350-3表のサイズが基準になります。
これらの接地線サイズの選定において、よく登場する算定式がA=0.052Inというものです。ここで「A」は銅線の断面積(㎟)、「In」は定格電流(A)を意味します。ただし、これはあくまで内線規程で示された選定表の根拠となる算式であり、実際の設計や検査の現場では内線規程の表を基準に選定することが求められています。
つまり、太さの選定は「種別の把握」→「定格電流の確認」→「内線規程表で選定」という流れを守ることが大切です。これにより、安全性・信頼性の高い電気設備が実現できるのです。
11-2. 内線規程を正しく読み解く力をつけよう
電気工事に携わる方にとって、内線規程を正しく読み解く力はまさに必須スキルです。内線規程には、接地線のサイズだけでなく、どのような条件下でサイズを緩和できるか、また複数種の接地線が共用されている場合の扱いまで、詳細なルールが記載されています。
たとえば、C種やD種の接地極線においては、専用の接地極であり、他の金属体と連絡していない場合に限り、最大サイズを14㎟までとすることが可能とされています。こうした「例外規定」は知っているだけで設計や施工の自由度が広がりますし、コストにも影響してきます。
また、母線(接地幹線)については、複数の分岐接地線のサイズをすべて合算して選定するのではなく、最大のサイズを採用すればよいという点も、実務で非常に役立つポイントです。
このように、内線規程の読み方ひとつで、設計の合理性と安全性が大きく変わってきます。普段から条文や表に慣れ親しみ、資料1-3-6のような根拠資料にも目を通しておくと、判断に自信が持てるようになります。
11-3. アース線は“命を守る線”であることを忘れずに
最後に最も重要なことをお伝えします。アース線は、単なる“電線のひとつ”ではなく、万が一の地絡や漏電から人命や設備を守るための命綱です。
どんなに優れた機器を設置しても、アース線の設計・施工に問題があれば、安全性は一気に崩れてしまいます。例えば、規程より細いアース線を使ってしまえば、漏れ電流が充分に流れず、ブレーカーが作動しない、火災が起きる、感電リスクが高まるといった事態が容易に想像されます。
また、B種接地のように変圧器の定格容量に応じてサイズを選ぶ場合、誤差が出れば重大な事故につながる可能性もあります。だからこそ、アース線は「安全装置の一部」ではなく、「安全そのもの」と考えて向き合うことが大切です。
たかが1本のアース線。されどその1本が、設備の健全性と、働く人々の命を守っているのです。これを心に刻み、サイズ選定に誤りのないよう、丁寧な確認と判断を心がけましょう。

