配線設備の現場で頻繁に使われる「プルボックス」。その蓋には「平蓋」と「かぶせ蓋」という2つのタイプがありますが、「どちらを選べばいいのか分からない」と感じたことはありませんか?本記事では、プルボックスの基本から、平蓋とかぶせ蓋の構造的な違い、現場での使い分け方までをわかりやすく解説します。また、蓋の選定で見落としがちな防水性や施工性、コスト面のポイントも丁寧に紹介します。
1. プルボックスの基本:なぜ必要か?
1.1 プルボックスとは?定義と使用目的
プルボックスとは、電気配線の引き込みや分岐、接続を行うために使われる金属製または樹脂製のボックスです。名前の「プル(Pull)」が示すように、電線を引き込む作業(プル作業)に関連して使用されることが多いのが特徴です。特に電線の通線距離が長かったり、曲がり角が多い場合には、作業効率や安全性を確保するために設置されます。
例えば、床下や天井裏、地中埋設配管の中間地点などに設置され、作業者が電線を引っ張る際の中継ポイントとして重要な役割を果たします。また、後々の保守点検や配線変更のためにも有効で、建物全体の電気設備のメンテナンス性を高めるために不可欠な部材といえます。
1.2 アウトレットボックスとの共通点と違い
プルボックスとアウトレットボックスは、どちらも電線の接続や分岐を行うためのボックスである点で共通しています。材質に関しても、鉄製・SUS(ステンレス)製・樹脂製など、選べる種類はほぼ同じです。しかし、最も大きな違いは「サイズ規格の有無」にあります。
アウトレットボックスにはJIS規格が存在し、そのサイズは厳格に決まっています。たとえば、102mm×102mm、または119mm×119mmといった標準寸法に制限されており、耐久性や構造的安全性に関しても試験方法が明確に規定されています。その一方で、プルボックスにはこのようなサイズ規格がありません。そのため、施工現場の状況に合わせて、400mm×400mmや150mm×150mmといった、自由な寸法で製作することが可能なのです。この自由度の高さが、プルボックスを現場で柔軟に活用できる理由となっています。
また、アウトレットボックスは基本的に小型で、特に樹脂製や黒い焼付塗装タイプが多く出回っています。一方、プルボックスではZAM鋼板製やステンレス製など、耐候性・防錆性に優れた素材が選ばれることも多く、屋外や高湿度環境での使用にも適しています。
1.3 現場での主な使用例と機能的メリット
プルボックスは、特に大型建築物や工場設備、インフラ設備などで活躍しています。例えば、長距離にわたる地中配管や建物の複雑な配線ルートにおいて、途中にプルボックスを挿入することで、電線の引き回し作業が格段にスムーズになります。曲がり角が多い配管では、配線にかかる抵抗が大きくなるため、その負荷を軽減するためにもプルボックスの設置が重要なのです。
また、特注対応が可能な点もプルボックスの大きな魅力です。たとえば「国交省仕様」や「イカリハンドル付き」「スライドプレート内蔵」など、設置環境や用途に合わせたカスタマイズ製作が行われており、非常に柔軟性が高い部材と言えます。蓋の形状も「平蓋」「かぶせ蓋」など用途によって選べるため、施工現場のニーズに的確に応えられるのもメリットの一つです。
このように、現場の効率と安全を両立させるために、プルボックスは欠かせない存在です。設置のしやすさ、メンテナンス性、特注対応といった面で高い機能性を持っていることが、建築・電気設備の現場で重宝されている理由となっています。
2. 平蓋とかぶせ蓋とは?構造と違いを徹底比較
2.1 平蓋とは:構造・見た目・使われ方
平蓋(ひらぶた)は、プルボックスの開口部に対して平らにフラットに取り付ける蓋のことを指します。
この蓋は、ボックスの側面や上面のフチに沿ってビスで直接固定される構造で、外観上もボックス本体と同一平面に収まります。
見た目がすっきりしていて、設置後のスペースを無駄にしないため、屋内での配線管理や分電盤の中継ボックスとしてよく使用されます。また、機器の設置状況やメンテナンス性を考慮して、蓋の取り外しが容易な設計になっているのも特徴です。
特注品で製作されることも多く、鉄・ステンレス・ZAMなど素材の選択肢も豊富で、設置環境に合わせて選定されます。
2.2 かぶせ蓋とは:構造・役割・防水性との関係
かぶせ蓋は、その名のとおりボックスの上から蓋を“かぶせる”ような構造を持っています。
フラットな平蓋とは異なり、蓋の周囲に立ち上がり(立ち壁)が設けられており、ボックスの縁を囲い込むような形状になっています。この構造により、防水性や防塵性を高める効果があります。
特に屋外で使用されるプルボックスでは、雨や埃の侵入を防ぐ必要があるため、かぶせ蓋タイプが選ばれるケースが非常に多いです。また、立ち上がりの高さや素材の選定によって、JIS規格や国交省仕様への適合を意識した設計も可能です。
この蓋の構造は、密閉性を重視する環境や、風雨にさらされる屋外配線設備に最適です。
2.3 【図解】両者の違いを視覚的に理解
視覚的な違いを理解するには、まず蓋と本体の接触構造に注目するのがポイントです。
平蓋タイプは、ボックス本体の端面と蓋が同一平面上に並び、側面から見た際には蓋の存在が目立ちません。一方、かぶせ蓋タイプでは、蓋の周囲にフチが立ち上がっており、本体を包み込むような形状になっています。この立ち上がり部分が水や埃の侵入を防ぐ役割を果たしているのです。
たとえば、400mm×400mmサイズのボックスで比較した場合、平蓋は全体サイズ400mm角ですが、かぶせ蓋は本体が370mm角、蓋が外周で430mm角のように一回り大きくなります。
これにより、屋外設置時の安心感が格段に違ってきます。
2.4 現場での使い分けパターン(例:屋内vs屋外)
実際の工事現場では、設置場所や用途に応じて平蓋とかぶせ蓋が使い分けられています。
まず、屋内での配線作業や機械設備周りでは、デザイン性とメンテナンス性を重視して平蓋が採用されることが多いです。
一方で、屋外や地下ピット内など、水分や粉塵が多く発生する場所では、耐候性を考慮してかぶせ蓋が選ばれます。とくに国交省仕様やJIS適合製品では、防水試験や耐久性試験に合格することが前提となっており、かぶせ蓋構造が不可欠です。
加えて、現場では配線の取り回しのしやすさも考慮され、蓋の開閉方向や固定方法についても細かく指定されることがあります。たとえば、ZAM材を使った屋外仕様のかぶせ蓋ボックスでは、溶融亜鉛メッキで耐腐食性を確保し、取っ手や丁番なども設置されるケースが多く見られます。
このように、用途・環境・規格・施工性といった複数の観点から、最適な蓋タイプを選定することが重要です。
3. 蓋の選定で注目すべき3つのポイント
3.1 密閉性と防水・防塵性能:蓋構造による差
プルボックスの蓋には大きく分けて「平蓋」と「かぶせ蓋」があります。
密閉性や防水・防塵性能を重視する場合、かぶせ蓋の方が有利です。
かぶせ蓋は本体に対して外側から覆うように設計されているため、隙間が少なく、ゴムパッキンやシーリング材と組み合わせることで、IP規格に対応した高い防水性能を実現しやすい構造です。
一方、平蓋は文字どおりボックスの上にフラットな蓋を乗せてネジ止めする形状であり、簡易的な構造のため施工がしやすく、コストも抑えられますが、どうしても蓋とボックスの間に微細な隙間ができやすくなります。
このため、防水・防塵が重要となる屋外設置や工場内の埃・水分が多い環境では、平蓋よりもかぶせ蓋が選ばれることが多いです。
特にJIS C 8340などの規格試験においても、防水性能を求められるケースでは、かぶせ蓋構造が前提となる仕様も見られます。
3.2 施工性・メンテナンス性の違い
蓋の構造は施工時やメンテナンス時の作業性にも大きく影響します。
例えば、かぶせ蓋は蓋自体がやや大きく重くなる傾向があり、取り外しや取り付けの際に両手で支える必要があることから、高所作業や狭い場所での施工では不便になることもあります。
また、ボックスの周囲に蓋がかぶさるため、ボックスを壁際に取り付けている場合は、十分なクリアランスが必要です。
それに対して平蓋は、本体天面の形状と一致するためコンパクトかつ軽量で、限られたスペースでも開閉しやすく、頻繁に点検や改修を行う設備には最適です。
ネジ止めによる密着性も適度で、ゴムパッキンなどの追加加工が不要なケースもあります。
このように、メンテナンスの頻度や設置環境に応じて、適切な蓋構造を選ぶことが重要です。
3.3 コストと在庫対応:規格品と特注品の違い
プルボックスの蓋の種類によってもコストに違いがあります。
一般的に平蓋は構造がシンプルなため量産しやすく、規格品としての在庫対応もしやすい傾向があります。
そのため、急な納品や現場対応が必要な場合にも、平蓋タイプの方が調達がスムーズに進みやすいのです。
対してかぶせ蓋は、ボックス寸法に対して蓋にかぶせ部分を設ける必要があるため、標準サイズのバリエーションが少なくなりがちです。
その結果、現場の寸法に合ったサイズが見つからない場合は特注製作が必要となり、コストや納期に影響を及ぼす可能性があります。
特に400mm×400mm以上のような大型サイズや、異形形状の場合は、かぶせ蓋タイプの特注率が高くなるため、事前の設計・発注スケジュールにゆとりを持つことが求められます。
4. 規格とサイズの基礎知識
4.1 アウトレットボックスのJIS規格(C8340等)とは
アウトレットボックスは、電線の接続や分岐を行うためのボックスで、主に屋内外の固定電気設備に使用されます。
この製品にはJIS(日本産業規格)による明確なサイズと性能の基準が存在します。
たとえば、JIS C 8340という規格では、主に鉄製やステンレス(SUS)製のアウトレットボックスについて、幅や高さ、厚さ、ねじの間隔などの細かな仕様が定められています。また、以前はJIS C 8431やJIS C 8435といった規格も存在していましたが、これらは1999年に統合・廃止されました。
現在主に参照される規格では、AC600VまたはDC750V以下の回路に使用される樹脂製や金属製のボックスについても、耐久性や寸法精度を含めた品質をチェックする試験方法が定義されています。 標準的なサイズは102mm×102mmや119mm×119mmといった小型のものに限定され、限られたスペースへの設置を前提としています。 そのため、取り付け作業や結線作業の自由度がやや制限される場面も見受けられます。
4.2 プルボックスに規格がない理由とその自由度
一方で、プルボックスにはJISのような明確なサイズ規格が存在しません。
この特徴が、かえって現場ごとのカスタマイズを柔軟に行える大きなメリットとなっています。
たとえば、電線の引き込みや中継を行う際に作業スペースが必要な場合、150mm×150mmや400mm×400mmなど、現場のニーズに応じて自由に寸法設計を行うことができます。
また、材質も多様で、ZAM鋼板(溶融亜鉛メッキ鋼板)やステンレスなど、耐久性・防錆性に優れた素材が選ばれやすいのが特徴です。 この柔軟さから、プルボックスは特注品としての需要が高く、多様な現場対応が可能となっています。 なお、サイズに上限はなく、数百ミリから1メートル以上の特大サイズまで製作されるケースもあります。
4.3 サイズ選定の失敗例と対策(150mm〜400mm以上まで)
プルボックスやアウトレットボックスのサイズ選定において、意外と多いのが「小さすぎてケーブルが収まらない」「結線スペースが足りない」といった失敗です。たとえば、102mm×102mmのアウトレットボックスでは、太径ケーブルや複数の回路を収めるには窮屈になることがあります。その結果、施工現場では結線ミスや配線の再作業が発生し、工期遅延や追加コストにつながるリスクがあります。
このようなリスクを回避するためには、使用する電線の本数や太さ、必要な中継スペースを事前に正確に把握し、最小でも150mm四方以上のプルボックスを確保するのが理想的です。たとえば、幹線用の太いケーブルを複数本中継する場合には、300mm×300mm以上が望ましいですし、さらに結線や点検スペースを考慮する場合は400mm×400mm以上も検討すべきです。
また、蓋の形式によっても使い勝手が異なります。平蓋タイプは設置時にスペースを取らず、コンパクトに収まる反面、かぶせ蓋タイプは防塵性や雨水の侵入を防ぐといったメリットがあります。こうした点もサイズ選定と合わせて検討することで、現場の安全性と施工性の両立が図れます。
5. 材質と仕上げの選択肢と注意点
プルボックスの選定においては、単にサイズや蓋の形状を選ぶだけでなく、使用環境に適した材質や表面処理を選ぶことが非常に重要です。とくに屋外での設置が想定される場合には、腐食への耐性やメンテナンス性まで見据えた材質選びが求められます。以下では、主要な材質と仕上げ処理の違いについて詳しくご説明します。
5.1 材質の違い:SUS/ZAM/樹脂/鋼板の特徴比較
SUS(ステンレス)は、プルボックスの中でもとくに人気の高い材質です。その理由は、非常に高い耐食性を持ち、海沿いや工場のような湿気の多い環境でも腐食しにくい点にあります。SUS304が最も一般的ですが、塩害地域ではSUS316を選定することでさらに長寿命化が期待できます。
ZAM鋼板は、亜鉛・アルミ・マグネシウムの合金めっきが施された鋼板で、耐食性と加工性のバランスに優れています。近年では「安価でかつSUS並みの耐久性を持つ」素材として注目されており、塗装との組み合わせでさらに耐候性を高めることができます。
樹脂製のプルボックスは、主に屋内や非腐食環境での使用に適しています。軽量かつ加工しやすい反面、高温や紫外線への耐性が弱いため、屋外では劣化が早まる可能性があります。ただし、JIS C 8435のような規格が適用される製品もあり、安全性と一定の品質は担保されています。
最後に鋼板(一般的な鉄製)ですが、コスト面で有利な反面、表面処理なしでは非常に錆びやすいという弱点があります。そのため、屋外で使用する場合には必ず適切な表面処理を施す必要があります。
5.2 表面処理の種類:溶融亜鉛めっき、焼付塗装等
プルボックスの表面処理としては、大きく分けて溶融亜鉛めっき(ドブ漬け)と焼付塗装の2つがよく使われます。それぞれの特性と選び方を見てみましょう。
溶融亜鉛めっきは、鋼板の表面に高温で溶かした亜鉛をコーティングする処理で、厚く均一な皮膜により高い防錆効果を発揮します。特にプルボックスを屋外に長期間設置する場合には、非常に信頼性の高い処理といえます。また、国交省仕様などの公共インフラ系案件では、この処理が必須とされるケースもあります。
一方の焼付塗装は、塗料を加熱して硬化させることで表面に強靭な塗膜を形成する方法です。ZAM鋼板などと組み合わせることで美観と耐久性を両立でき、色指定も可能なため意匠性が重視される場所にも適しています。ただし、塗膜が剥がれた部分から腐食が進む可能性があるため、施工時やメンテナンス時の扱いには注意が必要です。
5.3 屋外設置時の腐食対策と選び方
屋外でプルボックスを設置する際、最も注意すべきは腐食への対策です。風雨や塩害、紫外線といった自然環境に長期間さらされるため、適切な素材選定と表面処理が製品寿命を左右します。
たとえば、沿岸部や工場敷地内など腐食リスクの高い環境では、SUS製に加え、部品のボルトや蝶番もステンレス製に統一することでトータルな耐腐食性が確保されます。また、SUS製品には「耐用年数約10年〜20年」以上の実績があり、初期投資は高めでも長期的にはコストパフォーマンスが高い選択です。
中程度の腐食リスク環境では、ZAM鋼板に溶融亜鉛めっきや焼付塗装を組み合わせた製品がバランスの取れた選択肢となります。さらに、ボックス自体の防水性能や水抜き穴の有無も設置環境に応じて考慮する必要があります。
一方、屋内で使用する場合やコストを重視したい場合には、樹脂製や表面処理済みの鋼板製も選択肢になります。ただし、これらは紫外線や熱に弱いという性質があるため、使用条件を慎重に見極めましょう。
5.4 まとめ
プルボックスを長く安全に使用するには、使用環境に応じた材質と表面処理の組み合わせを見極めることがカギです。屋外では特に腐食対策が重要になり、SUSやZAMなどの耐久性に優れた素材が活躍します。また、設置場所によっては焼付塗装による意匠性も求められるため、全体のバランスを見ながら選定しましょう。適材適所の選択が、施工後の安心につながります。
6. よくある誤選定とそのリスク
プルボックスを選定する際、「平蓋とかぶせ蓋の違い」や「サイズの自由度」などの特性を正しく理解していないと、現場での施工ミスや安全性の低下につながることがあります。特に、JIS規格に基づいたサイズ制限があるアウトレットボックスとの混同や、蓋の形状違いに起因する誤選定が、トラブルの大きな原因となっているのです。ここでは、実際に多く見られる誤選定の事例と、それによって生じうるリスクについて詳しく解説します。
6.1 サイズ不足によるケーブル取り回しの問題
アウトレットボックスのサイズには厳格な規格が存在します。代表的なものでは、102mm×102mmや119mm×119mmのものが一般的で、これはJIS C 8340や旧JIS C 8435などで規定されていました。一方、プルボックスはこのようなサイズ規定がなく、150mm角、300mm角、400mm角といったように、配線量や現場条件に応じて自由に選べるのが大きな特徴です。
しかし、こうした違いを理解しないままにアウトレットボックスを選定してしまうと、内部での電線の取り回しが極端に難しくなることがあります。たとえば、8本以上のVVFケーブルを分岐させる場合や、太径の電線を複数系統でまとめる場合、規格サイズではまったく収まりきらず、結果的にボックス内部が密集して発熱の原因にもなりかねません。現場でよくある失敗として「配線は通ったけれど、カバーが閉まらない」というケースもあります。
このような事態を避けるには、最初からプルボックスの自由設計が前提となる設計・発注を行う必要があります。とくに、特殊サイズや特注品の需要が高い場面では、最初から「プルボックスありき」で設計することが、配線のしやすさと安全性を確保するポイントです。
6.2 防水・防塵の見落としによる事故例
ボックスの設置場所が屋外や水気の多いエリアにも関わらず、「蓋の形状」や「材質」を誤って選んでしまうと、防水・防塵性能が不足して重大な事故につながるケースがあります。
たとえば、「平蓋」は構造上、雨水やホコリの侵入を完全には防げません。一方で「かぶせ蓋」はフチがかぶさる構造になっており、水の侵入に強く、屋外用として採用されることが多いです。しかし、現場の制限や施工コストだけを見て平蓋を選んでしまった結果、配線部分が腐食したり、ショートして機器が故障するという事例は少なくありません。
また、材質についても誤選定のリスクは大きいです。例えば、海岸沿いや工場内など腐食性の高い環境では、ZAM(溶融亜鉛メッキ)やSUS(ステンレス)の使用が推奨されます。ところが、「価格が安いから」「見た目が同じだから」という理由だけで樹脂製や塗装品を使ってしまい、短期間で劣化して交換を余儀なくされるケースが発生しています。
現場環境に適した蓋構造と材質を選ぶことが、事故の未然防止に直結します。
6.3 ネジピッチや固定方法の非互換による施工ミス
最後に注意したいのが、プルボックスやアウトレットボックスの「ネジピッチ」や「固定方式」の違いです。プルボックスは特注製作が前提となることも多く、ねじ間隔や取り付け穴の配置も柔軟に対応できます。一方で、アウトレットボックスはJISの規格に則っているため、ネジピッチや取り付け方法があらかじめ決められています。
この違いを理解せずに部材を手配した結果、現場で「合わない」「固定できない」「穴位置がずれている」などの施工ミスが発生する可能性があります。特に鉄骨や盤面への固定では、数ミリのズレが致命的になる場合があり、再加工や現場調整が必要となれば、時間もコストも大きく膨らみます。
加えて、かぶせ蓋タイプのプルボックスはその構造上、蓋を外すための「イカリハンドル」や「丁番」などの付属部品も必要です。これらの部品が設計図に含まれていないと、開閉ができない、あるいは工具が入らないなどの問題にもつながります。
固定方法に関する仕様を細部まで把握したうえで、ボックスの選定と発注を行うことが、スムーズな施工と長期的な品質確保のカギとなります。
7. 特注プルボックスの活用と対応範囲
7.1 よくある特注依頼事例(例:国交省仕様、変形対応)
プルボックスは規格に縛られない自由なサイズ設計が可能なため、現場のニーズに柔軟に応える特注対応が数多く行われています。代表的な例としては、国土交通省の仕様に対応したモデルが挙げられます。これは公共事業などで定められた図面や品質要件に準拠した製品で、構造や耐久性、表面処理(溶融亜鉛メッキ仕上げなど)などに明確な基準が設けられています。
また、設置場所の制約や配線経路にあわせて、台形・三角形・段差付きなどの変形ボックスもよく製作されています。たとえば「レリーズ取付用変形プルボックス」や「外丁番付きのイカリハンドル付きタイプ」などは、設備や工具との干渉を避けながら、安全に配線作業を行うために用いられます。さらに、「2分割タイプ」や「スライドプレート付き」など、施工性やメンテナンス性を考慮したカスタマイズも多数存在します。
ZAM鋼板やSUS材(ステンレス)などの材質指定も可能で、耐候性や防錆性能が求められる場所にも適しています。このように、規格品では対応しきれない要件に対し、特注プルボックスは高い柔軟性で応えています。
7.2 製作依頼の流れと注意点
特注プルボックスを依頼する際の流れは、基本的には次のようなステップに沿って進められます。
1. ヒアリング・仕様確認:まず、使用場所や取り付け方法、必要なサイズ、穴あけ加工の有無、材質の指定など、使用条件を明確にします。この時点で、図面がある場合は提出しますが、図面がなくても後述の通り対応可能な場合もあります。
2. 見積り・仕様確定:条件に基づいて見積りが出され、金額と納期、製作内容を確認したうえで発注します。この段階で不明点をしっかり確認することが大切です。特に、仕上げの種類(メッキ、塗装など)や現場での取り付け方向などは後から変更が効かないため、慎重に詰めましょう。
3. 製作・納品:内容確定後は、通常2週間前後で製作され、配送されます。緊急対応や短納期対応も相談可能な場合があるので、希望があれば早めに伝えておくのが安心です。
注意点としては、取付位置や周囲の障害物をしっかり確認することが挙げられます。特注であるからこそ、一度のミスが全体の工期に影響するため、事前の現場確認と丁寧なやりとりが成功のカギです。
7.3 図面がなくても製作可能?現物対応について
特注品と聞くと「図面がないと依頼できないのでは」と心配される方もいますが、実は現物支給による製作対応が可能なケースが多くあります。つまり、古いプルボックスや既存品の現物を送ることで、それと同じサイズ・形状で新たに作ってもらうことができます。
たとえば、「図面が紛失したけれど、同じものをもう1個だけ作りたい」といった場合でも、採寸・現物確認の上で正確に再現できます。また、現物に微調整を加えたり、素材だけを変更したりすることも相談可能です。これは、長年の製作実績がある職人と設計者がチームとなっているからこそできる対応力です。
さらに、写真や寸法メモ、用途の説明があれば簡易図面をもとに提案してくれるケースもあるので、まずは相談してみることが大切です。既製品ではまかなえない現場ニーズに対して、現物対応は非常に心強い選択肢となります。
8. 実際の現場に学ぶ選定ノウハウ
8.1 使用環境に応じた蓋構造の最適選定例
プルボックスの蓋構造は、「平蓋」と「かぶせ蓋」の2種類に大きく分かれます。
それぞれに適した使用環境があり、現場での選定ミスは施工性の悪化や安全性の低下につながるため、慎重な選定が求められます。
たとえば、屋内の天井裏や壁内など、空間制限が厳しい環境では、厚みを最小限に抑えられる「平蓋」が推奨されます。
一方、屋外や埃・雨水の侵入リスクが高い場所では、防水・防塵性能に優れる「かぶせ蓋」の使用が一般的です。
特にかぶせ蓋は、縁が立ち上がっており、シール材やパッキンを併用することで、水や埃の侵入をより確実に防ぐことができます。
材質面でも重要な選定ポイントがあります。SUS(ステンレス)製は耐久性に優れ、長期的に腐食を防ぎたい場所で選ばれますが、コスト面ではZAM(溶融亜鉛メッキ鋼板)も人気です。
このように、蓋構造だけでなく材質・施工環境・設置位置まで考慮することで、最適なプルボックスを選定できます。
8.2 屋外×塩害地域での成功事例
ある沿岸地域の公共インフラ施設では、塩害による電気設備の腐食対策が大きな課題となっていました。
特に、従来の鉄製プルボックスでは3年程度でサビが進行し、蓋の取り外しすら困難になることもありました。
そこで採用されたのが、SUS304製のかぶせ蓋付きプルボックスです。
この製品は国交省仕様に準拠しており、耐塩害性が高く、加えてイカリハンドル付きで工具不要の開閉が可能となっていました。
更に、蓋の縁にゴムパッキンが装着されており、海風や暴風雨時でも内部への塩水浸入をシャットアウト。
この現場では、設置から5年が経過してもサビの進行は見られず、現場監督からは「選定一つでメンテナンス工数が劇的に減った」との声も上がっています。
このような事例から、環境に適した蓋構造と材質の選定が長期的なコスト削減につながることが明らかです。
8.3 複数配線の通線性を考慮した設計実例
建物内の幹線工事や制御盤周辺では、複数の電線や通信線が集中することが多くなっています。
こうした環境でのプルボックス選定では、「配線の通線性」も重要な設計要素となります。
一例として、150mm×150mmのかぶせ蓋付きプルボックスを採用した屋内制御盤の事例があります。
この現場では、5系統の通信ケーブルと2系統の電源ケーブルが通っており、将来的な増設にも対応可能な構造が求められていました。
設計のポイントとなったのは、側面4方向すべてにノックアウト穴がある点と、内部のケーブル保護用ガイドプレートを特注で組み込んだことです。
この結果、施工時の通線がスムーズになり、かつメンテナンス時にも配線経路が把握しやすい構成に仕上がりました。
また、将来の配線増設の際も既存のボックスを活用できるよう、余裕のあるサイズを選定したことも成功の鍵となっています。このように、通線性を意識した設計と、現場ニーズに応じたカスタマイズが合わさることで、プルボックスはより実用的なものになります。
9. まとめ:用途・環境に応じた正しい蓋の選び方
プルボックスの「平蓋」と「かぶせ蓋」は、見た目だけでなく用途や施工環境に応じた選定が重要です。どちらを選ぶかによって、施工性や耐久性、コストにまで影響が出るため、慎重な判断が求められます。
「平蓋(ひらぶた)」はその名のとおり、箱の上面とフラットに一体化するような蓋で、主に省スペースでの設置に向いています。たとえば壁面にぴったりと設置したい場面や、限られた空間で目立たせたくない場合に適しています。しかしその反面、蓋の開閉時に周囲のクリアランスが必要になるため、作業スペースの確保にはやや工夫が必要です。
一方で「かぶせ蓋(かぶせぶた)」は、ボックス本体の外側に覆いかぶさるようにして装着される構造です。このタイプは防水性や防塵性の向上が期待できるため、屋外や粉塵の多い環境での使用に適しています。また、蓋の着脱が簡単なので、頻繁なメンテナンスが必要な配線箇所にも向いています。例えば、外丁番やイカリハンドル付きの特殊構造とも相性が良く、現場に応じたカスタマイズも可能です。
さらに重要なのはボックスのサイズや材質も、選定の大きな判断材料になるという点です。「プルボックス」自体にはサイズ規格がなく、400mm×400mmや150mm×150mmなど、自由なサイズ展開が可能です。特注のニーズにも柔軟に対応できるため、建築現場やインフラ工事でよく選ばれています。それに対して、アウトレットボックスにはJIS C 8340などのサイズ規格が厳格に存在しており、主に102mmや119mmなどの小型製品に限定されます。
このように、どちらの蓋タイプを選ぶかは、「設置環境」「メンテナンス頻度」「防水性の必要性」「空間の制約」といった要素を総合的に判断する必要があります。現場に最適な蓋を選定することが、施工の効率化やトラブルの防止にもつながります。
最終的には、「何のために設置するのか」「どのような環境で使うのか」という基本に立ち返って、最も適したプルボックスの蓋を選びましょう。もし迷ったときには、材質・サイズ・設置方法を含めて専門業者に相談するのもひとつの有効な手段です。