「ジャンプやスピンだけがフィギュアの魅力じゃない」と感じたことはありませんか?実は演技の終盤で観客を惹きつける“ある技”が、多くの名演技を彩っています。それが“コレオシークエンス”。この記事では、コレオの意味や技の種類、採点基準、有名選手たちの美技までを丁寧に解説します。
1. コレオシークエンスとは?
1.1 そもそも「コレオ」とは何か?語源とフィギュアにおける意味
「コレオ」とは、英語の「Choreography(コレオグラフィー)」の略語で、振付や演出という意味を持ちます。フィギュアスケートにおいては、ただジャンプやスピンをこなすだけでなく、音楽に合わせて表現する演技全体の構成や動きを意味します。ダンスのようにリズムに乗って、リンク全体を使いながら観客を魅了することが求められます。この「コレオ」が語源となった要素が「コレオグラフィック・シークェンス(コレオシークエンス)」なのです。
1.2 コレオシークエンスの定義:ISUルールから読み解く特徴
コレオシークエンスとは、シニアのフリースケーティングでのみ採用される要素で、2012年シーズンから導入されました。ステップやターン、スパイラル、スプレッド・イーグル、イナ・バウアー、さらには最大2回転までのジャンプやスピンなど、様々な動作を自由に組み合わせて構成するのが特徴です。
評価においては他の要素と異なり、レベル判定が存在せず、固定の基礎点に対してGOE(出来栄え点)でのみ加減点が行われます。つまり、演技の難しさよりも、表現力やつながりの美しさ、個性あふれる構成が高く評価されるのです。ISUのルールでは「明確な始まりと終わりがあること」が求められており、演技の流れに自然に組み込まれていなければなりません。
1.3 シニアのみ?採用されるカテゴリとその理由
コレオシークエンスが採用されているのはシニアカテゴリのフリースケーティングのみです。ジュニアやショートプログラムではこの要素は含まれておらず、その理由としては、高度な表現力と演技の構成力が必要とされるからです。
シニアの選手には、ジャンプやスピンの技術に加えて、音楽を読み取り、それに感情を乗せて滑る力が求められます。その中で、コレオシークエンスはまさに芸術性と創造性の集大成ともいえる要素となっています。特に近年では、このセクションをハイライトとして演出する選手も多く、観客の記憶に強く残る部分にもなっています。
1.4 ステップシークエンスとの根本的な違い
「コレオシークエンス」と混同されがちなのが「ステップシークエンス」ですが、この2つには明確な違いがあります。ステップシークエンスは特定のステップ(シャッセ、モホーク、チョクトウなど)を組み合わせ、明確なパターンに沿ってレベル判定される技術要素です。対してコレオシークエンスは、自由な構成であり、レベル評価がなく、GOEのみで得点が変動する表現系要素です。
また、ステップシークエンスは「正確さ」「難度」「パターンの正しさ」が求められるのに対し、コレオシークエンスでは「独創性」「つながりの自然さ」「音楽との調和」がポイントとなります。この違いによって、同じステップでも使い方や印象が大きく異なります。羽生結弦選手のように、ハイドロブレーディングを組み込んでダイナミックに表現する例もあり、まさに個性が発揮される部分なのです。
2. 構成できる動きの種類と特徴
2-1. ステップの種類(モホーク・チョクトウなど)
フィギュアスケートのコレオグラフィック・シークェンスでは、さまざまなステップが自由に組み込めます。モホークやチョクトウはその代表例で、いずれも足を踏み替えて進行方向を変える動作です。モホークは同じエッジ間で方向を変えるステップで、チョクトウは異なるエッジへと切り替えます。さらに、シャッセやトウステップ、エッジの変更、クロスロールもよく使われます。これらは単なる移動手段ではなく、音楽に合わせて情感を伝える大切なツールなんですよ。だからこそ、選手は技術だけでなく音楽との一体感を大事にして構成しているんです。
2-2. ターンの種類(ツイズル・ループなど)
片足だけで方向を変えるのがターンです。ターンはスリーターンから始まり、より難易度の高いループ、カウンター、ロッカー、ブラケット、そしてツイズルまで多彩にあります。特にツイズルは回転しながら移動する連続動作で、ステップシークエンスでも重要視されます。ループやカウンターは回転の起点となるエッジと終点のエッジが異なるため、見た目にも技術的にも難しい動作です。これらをなめらかにつなげて見せることが、コレオグラフィック・シークェンスの醍醐味なんですね。
2-3. スパイラルポジション7選(アラベスク/Y字など)
スパイラルとは、滑りながら片足(フリーレッグ)を腰より高く上げて保持するポーズです。コレオシークエンスでは次のようなバリエーションが活用されます。
- アラベスクスパイラル:バレエのアラベスクのように上体を倒し、フリーレッグを後ろへ伸ばします。
- ケリガンスパイラル:アラベスクの姿勢から、フリーレッグの膝を手で持つ姿勢。ナンシー・ケリガン選手の名が由来。
- ビールマンスパイラル:背中越しにフリーレッグを頭上まで上げて保持。柔軟性が求められます。
- クロスグラブスパイラル:反対の手でフリーレッグを掴む姿勢。個性的な見せ方ができます。
- ファンスパイラル:バックサイドエッジに乗って行う、基本的なスパイラル。
- Y字スパイラル:Y字型に体を広げる難易度の高いポーズ。
- シャーロットスパイラル:上体を深く折り曲げて、一直線になるように滑る美しいスタイルです。
これらは選手の柔軟性や表現力が試される動作で、観客を魅了する瞬間にもなります。
2-4. ジャンプはOK?ジャンプに関する条件と制限
コレオグラフィック・シークェンスでは1回転ジャンプや2回転ジャンプが使用できます。ただし3回転以上のジャンプを行った時点で、そのシークエンスは終了と見なされるので要注意です。さらに、これらのジャンプは要素(ボックス)としてはカウントされないため、技術点には含まれません。つまり、ジャンプはあくまでシークエンスの演出として扱われ、評価されるのはGOE(出来栄え点)のみとなるんですね。ジャンプを上手に織り交ぜることで、よりリズミカルでドラマティックな演技になりますが、ルールに沿った使い方が求められます。
2-5. スピン・ポーズ・トランジション要素の使い方
コレオグラフィック・シークェンスにはスピンやポーズ、そしてトランジション(つなぎ)動作も取り入れることができます。たとえば短時間のキャメルスピンや、立ち止まって表情を見せるポーズなどもシークエンスの一部として成立します。こうした要素は「技を見せる」ことよりも「物語を伝える」ことに重きを置いて使われます。技術審判はそれぞれのスピンやトランジションを個別の要素としてカウントしませんが、演技全体の完成度には大きく影響します。このような構成ができる選手ほど、表現の幅が広く、観客の心を動かす演技になりますね。
2-6. イーグル・イナバウアー・ハイドロブレーディングの美技
イーグル、イナバウアー、そしてハイドロブレーディングは、氷上の芸術ともいえる特別な動作です。イーグルは両足を180度に開き、外向きにつま先を向けて滑る姿勢。雄大で静寂な時間が流れるような魅力があります。イナバウアーは、片足を曲げて前に、もう片方の足をまっすぐ後方に引いたまま滑る技で、荒川静香選手のレイバック・イナバウアーがとても有名です。ハイドロブレーディングは、身体をほぼ水平に倒しながら滑る非常に難しい技。羽生結弦選手の深いエッジ使いで描く弧は、多くの人を魅了しています。これらの美技は技術点にはならなくても、演技の芸術性を何倍にも高めてくれる、そんな魔法のような要素なんです。
3. 採点・評価の仕組み
3-1. コレオにレベルは存在しない?固定基礎点の考え方
フィギュアスケートの「コレオグラフィック・シークエンス」、通称コレオには、他の技のようなレベル(Lv.1〜4)という評価基準は存在しません。
つまり、「難しい動きが多かったからレベル4!」といったような採点はされず、あらかじめ決められた基礎点(=固定基礎点)が与えられるのです。
このルールは、コレオがジャンプやスピンのように「技の完成度」よりも、演技全体の表現力や個性を評価することを目的としているからなんですよ。
例えば、2023-24シーズンの女子シングルでは、コレオの基礎点は1.90点に設定されています。
これにプラスでGOE(出来栄え点)が加算されるか引かれるか、という採点方法になります。
3-2. GOE(出来栄え点)で評価されるとは?その仕組みと加点要素
コレオにはレベルがない代わりに、GOE(Grade of Execution = 出来栄え点)で演技の質が評価されます。
GOEは−5から+5の11段階評価で、ジャッジが「この選手のコレオはすごく魅力的だった!」と感じれば、+5に近い評価がもらえます。
具体的にどんなところが評価されるのかというと、動きの独創性・つなぎの滑らかさ・音楽との一体感・感情表現の深さなどです。
たとえば、羽生結弦選手が行った「ハイドロブレーディング」のような美しく滑らかな動きが含まれていたり、イナ・バウアーを音楽にぴったり合わせて決めたら、それだけでジャッジの心をつかんで高得点に近づきます。
3-3. シークエンスの終了タイミングと無効になるケース
コレオシークエンスのスタートと終わりの見極めは、技術審判(テクニカルパネル)の大事な役割のひとつです。
シークエンスは、最初のスケーティング動作で始まり、次の要素の準備に入ったと判断された時点で終了します。
でも注意してほしいのは、シークエンス内で3回転ジャンプやそれ以上のジャンプをしてしまうと、その瞬間に終了したとみなされること。
さらに、ジャンプのせいで構成の一貫性が崩れたり、要素の意図が見えなくなってしまうと、「ノーバリュー(無効)」となるケースもあるのです。
シングルやダブルジャンプはOKですが、トリプル以上のジャンプはやりすぎ注意です。
3-4. プロトコルの見方:ChSqの表記とスコア解釈
試合後に発表されるプロトコル(採点表)では、コレオシークエンスは「ChSq」と表記されます。
この略号の横にある数字がGOEで、例えば「ChSq +3.00」とあれば、基礎点1.90に3.00の加点が加わって4.90点になるという計算になります。
また、技の欄に「ChSq No Value」などと書かれていたら、それは要素として認められなかった(無効だった)ということです。
ジャッジの採点意図を読み取るには、このChSqの表示とGOEの数値をよく見ることが大切なんですよ。
3-5. 技術審判とジャッジの判定基準の違いとは?
フィギュアスケートでは、技術審判(テクニカルパネル)とジャッジ(演技審査員)が異なる役割で採点をしています。
技術審判は、「この動作は正しく要素として認められるかどうか」を判断し、要素の認定や終了タイミングをチェックします。
一方でジャッジたちは、演技の表現力や完成度を主観的に評価し、GOEを決定します。
たとえば、ハイドロブレーディングがすごく低い姿勢で滑られていても、それが音楽に合っていなかったり、構成から浮いていたりしたらGOEは低くなる可能性もあります。
技術的な認定と芸術的な評価、どちらもそろって初めて高得点につながるということですね。
4. コレオシークエンスの演出的価値
4-1. プログラム構成における「魅せ技」としての位置づけ
コレオグラフィック・シークェンスは、シニアのフリー・スケーティングにおいて唯一「GOE(出来栄え点)」のみによって評価される要素です。そのため、技術点というよりは、観客やジャッジに強烈な印象を残す「魅せ技」としての性質が非常に強いのです。
この要素には固定された基礎点が設定されており、内容に応じてGOEで加点または減点が行われます。つまり、どれだけ印象的で芸術的な動きを織り交ぜるかが成否を分けるカギになります。イナ・バウアー、スプレッド・イーグル、ハイドロブレーディングといった、フィギュアファンなら誰もが心を奪われるような動作を組み合わせることで、演技のクライマックスを飾る「フィニッシュムーブ」のような役割も果たすのです。
例えば、荒川静香選手がトリノ五輪で見せた深い反りの「レイバック・イナ・バウアー」は、技術的には評価されにくい動作でしたが、視覚的な美しさとインパクトにより世界中の人々を魅了しました。このように、コレオシークエンスは技術点では語れない「記憶に残る名場面」を演出するための武器なのです。
4-2. 演技後半の感動を高める効果とは
多くのトップスケーターは、演技の後半、特にフィニッシュ直前にコレオシークエンスを配置しています。これは、単に演技構成上の流れだけでなく、感動のピークを作り出すための計算された演出でもあります。
例えば、羽生結弦選手は「SEIMEI」や「Hope and Legacy」といったプログラムで、ハイドロブレーディングを含んだコレオシークエンスをラストに配置し、圧巻のエンディングを演出してきました。この瞬間、会場が静まり返り、すぐ後に大きな拍手が巻き起こる…。それは単なる技の披露ではなく、物語のクライマックスを視覚と感情で表現しているのです。
また、演技後半は疲労がたまるタイミングでもあります。それでも、身体を大きく使ったスプレッド・イーグルや深い姿勢でのハイドロブレーディングを盛り込むことにより、選手の体力・精神力、そして表現者としての強さを印象付けることができます。これが、コレオシークエンスが「演技全体の感動を最大化する仕掛け」として重要視されている理由なのです。
4-3. 表現力・つなぎ・リズム感とGOEの関係
コレオグラフィック・シークェンスの評価は、ジャンプやスピンのような技術点のレベルで判断されるものではなく、構成・表現・タイミングによって決まる非常に感覚的な要素です。その中でも特に大事なのが、「表現力」「つなぎの滑らかさ」「音楽との一体感(リズム感)」です。
ジャッジがGOEを加点する際に注目するポイントのひとつが、滑りのなかに無理のない流れがあるかどうか。つまり、スパイラルからイナ・バウアーへ、あるいはスプレッド・イーグルからジャンプに自然につながっていくような“つなぎの美しさ”が高評価に直結します。
また、音楽の盛り上がりに合わせてタイミング良く技を配置できているかも大切なポイント。音楽が一番盛り上がる瞬間にアラベスクスパイラルやファンスパイラルをぴたりと合わせると、まるでその音のために滑っているかのような印象を与えることができ、ジャッジにも強くアピールできます。
このように、GOEを最大限に引き出すには、単なる「演技の一部」ではなく、音楽と感情の流れを支配する“芸術表現の核”として設計することが求められるのです。
4-4 まとめ
コレオグラフィック・シークェンスは、フィギュアスケートの演技において観客の心をつかみ、演技を芸術へと昇華させる重要な要素です。固定された基礎点とGOEによる評価だからこそ、自由な発想と高い表現力が試される舞台でもあります。
イナ・バウアーやハイドロブレーディング、スパイラルなどの美しい動作を組み合わせて、音楽と感情の流れをひとつにすることで、ただの技術ではない“芸術的瞬間”を作り出せるのです。
この演出的価値を理解し、最大限に活かすことができれば、選手の魅力を引き出し、観客にも深く記憶される演技へとつながるでしょう。
5. パターンとルールの自由度
5-1. パターンに決まりはある?自由度と注意点
フィギュアスケートのコレオシークエンスには、なんとパターンに制限がありません。「好きなように滑ってもいいの?」と驚いてしまうかもしれませんね。でもその通りで、リンクをどう使うか、どのような軌道を描くかは選手の自由なんです。
とはいえ、完全に自由かというと、ちょっとだけルールもあります。一番大切なのは“シークエンス(流れ)”としてはっきり見えること。例えば、途中で止まってしまったり、何かの要素だけがポツンと目立ってしまうと、シークエンスとは認められにくくなってしまいます。だから選手たちは、ステップやジャンプ、スパイラルなどをスムーズにつなげながら流れるように見せることを意識して構成を考えているんですよ。
もちろん使える動作も幅広く、ステップ、ターン、スプレッド・イーグル、イナ・バウアー、ハイドロブレーディングまで、様々な個性を表現できるのが魅力。羽生結弦選手が得意としていたハイドロブレーディングのように、観客を魅了する動きも、この要素の中で自由に使えるんです。
5-2. ステップシークエンスとの配置順は自由?その理由
「ステップシークエンスとコレオシークエンス、どっちを先にやらないとダメなの?」って気になりますよね。でも安心してください。順番は完全に自由なんです。これは、ISU(国際スケート連盟)がしっかりとそう明記しているルールなんですよ。
だから、ステップを先にしてもいいし、コレオを先にしてもOK。選手たちは、自分のプログラムの中で感情の流れや演出に合わせて配置を選べるんです。例えば、最初は静かに始まって、後半で盛り上がる音楽なら、フィナーレの盛り上がりに合わせてコレオを入れるという戦略もありです。
ちなみに、コレオシークエンスはシニアのフリー演技にしか入れられない特別な要素です。そして基礎点は固定されていて、ジャッジのGOE(出来栄え点)で評価されるんですね。なので、他の要素よりも演技全体の印象に直結する表現力の勝負所とも言えるのです。選手によっては、「感情を込めたいから、演技の最後にコレオを持ってきたい!」というケースも多いですよ。
5-3. 次の要素の準備で「終了」と判定される基準とは
コレオシークエンスの「終了」って、ちょっと不思議なルールで決まるんです。例えば、「ここまでがコレオ!」と選手が明示するわけではないんですね。実は、次の要素の“準備に入った時点”で終わったと判定されるんです。
この「準備」ってどんなことかというと、たとえばジャンプに向けてスピードを上げたり、体勢を整えたりする動きのこと。特に2回転以上のジャンプを跳ぶ場合は、そのジャンプが出た瞬間にシークエンスが終了と見なされます。つまり、演技中に突然トリプルジャンプを跳んだら、その時点でコレオはおしまい、というわけです。
これはちょっと難しいルールだけど、とても大切。というのも、コレオの中で認められるジャンプは最大2回転までだからです。3回転を跳んでしまうと、それはもう別の技としてカウントされてしまい、コレオの流れもそこでストップ。ジャッジにも「ここでコレオ終わったな」と判断されてしまうわけですね。
だから選手たちは、ジャンプの種類や跳ぶタイミングもちゃんと考えて、最後まで“コレオの世界”が崩れないように演出しているんです。この細やかな構成力も、フィギュアスケートの奥深さのひとつなんですよ。
6. 歴史と変遷
6-1. 2012年に導入された背景と目的
コレオグラフィック・シークェンス、通称「コレオシークエンス」は、2012年シーズンから新たに導入された要素です。この要素は、それ以前に存在していた「男子のコレオステップ」と「女子のコレオスパイラル」を統合・進化させる形で誕生しました。
導入の背景には、芸術性と個性をより自由に表現できるパートを確保するという目的がありました。フィギュアスケートは技術点と芸術点の両立が求められる競技ですが、点数化される技の多くは技術面に偏りがちで、選手の創造力や音楽表現を活かす場が限られていました。そこで生まれたのが、評価をGOE(出来栄え点)のみとすることで自由度を保ったこの要素です。
この要素は、ジャンプやスピン、スパイラル、ステップ、スプレッド・イーグル、イナ・バウアー、ハイドロブレーディングなど、様々な動作を自由に組み合わせて表現できることが最大の特徴です。レベル認定がないため、創造性を重視し、スケーターが音楽に合わせて「魅せる」ことに専念できる仕組みとして評価されています。
6-2. 過去に存在したコレオステップ/コレオスパイラルとの違い
2012年以前、男子シングルでは「コレオステップ」、女子シングルでは「コレオスパイラル」という演技要素が存在していました。これらは、それぞれ性別ごとに決まった構成要素が求められており、男子には滑走技術、女子には柔軟性やポジションの美しさが主に評価されていました。
しかしこの区分けは、性別による役割の固定化にもつながっており、スケーターの持ち味を十分に活かしきれないという課題もありました。
そこで導入されたのが、「誰でも自由に動きを組み合わせて構成できる」コレオシークエンスです。この要素では、男女問わず全てのスケーターに等しく創造性のチャンスが与えられました。たとえば、女子でも力強いスプレッド・イーグルを披露したり、男子でも柔らかなスパイラルで観客を魅了する場面が増えてきたのです。
また、過去の要素は一定のレベル認定や構成条件がありましたが、コレオシークエンスでは技術レベルではなく、どれだけ音楽や演技に調和しているかが重要視されます。この違いが、観ている人にも自然と伝わる“ストーリー性”を生み出す大きなポイントになっているのです。
6-3. 男女間でのアプローチの違い
コレオシークエンスは男女共通の要素ですが、演技のアプローチにはやはり傾向としての違いがあります。
男子選手は、力強さやスピード感を前面に出した構成が多く見られます。たとえば、羽生結弦選手のように、深いエッジを使ったハイドロブレーディングや、ジャンプの合間に繰り出される大胆なスプレッド・イーグルなど、観客を「おおっ」と驚かせる要素を盛り込むことが特徴です。
一方で女子選手は、柔軟性や表現力を重視した構成が目立ちます。スパイラルやイナ・バウアーなど、音楽に溶け込むような優雅な動きが中心で、衣装や振付けとの一体感を持たせた繊細な表現が際立ちます。
しかし、最近ではこの傾向にも変化が見られます。女子選手が力強いジャンプやステップをコレオシークエンスに取り入れたり、男子選手がしなやかさや柔らかさを意識した演技で魅せることも増えてきました。こうした変化は、選手それぞれの個性を尊重し、自由に演技を創る時代の流れを反映しています。
6-4. まとめ
コレオシークエンスは、2012年の導入以降、フィギュアスケートにおいて「自由な表現の場」として進化を続けています。性別による固定的な要素から脱却し、すべてのスケーターが自分のスタイルで観客と対話できる貴重な時間となりました。
この要素の魅力は、選手の個性と音楽表現が最も強くリンクする瞬間にあります。ジャンプやスピンだけでは語れない、スケーターの世界観が詰まった“ストーリー”を、これからもコレオシークエンスを通じて楽しんでいきましょう。
7. 有名選手のコレオシークエンス事例解説
7-1. 羽生結弦のハイドロブレーディングの衝撃
羽生結弦選手のコレオシークエンスを語る上で、象徴的な存在となっているのがハイドロブレーディングです。この技は、体を氷すれすれまで深く倒し、まるで水面を滑るような姿勢でエッジに乗るという非常に難度の高い動作です。羽生選手のハイドロは特に、膝を深く曲げ、バックインサイドエッジで円を描くように滑るフォームが特徴的で、フリーレッグはスケーティングレッグの後方から外側へ大きく伸ばされ、視覚的にも美しい構成になっています。この動きは単なる技術にとどまらず、音楽と完璧にリンクした芸術的表現として評価され、ジャッジからも高いGOEを獲得しています。コレオシークエンスの自由度を生かしつつ、羽生選手は「見せ場」として観客の記憶に強く残る要素に仕上げているのです。
7-2. 宮原知子のスパイラルの美しさが魅せる瞬間
宮原知子選手の演技では、スパイラルが持つ繊細な美しさがコレオシークエンスの中で際立っています。彼女はアラベスクやY字スパイラルといったポジションを取り入れながら、フリーレッグの高さと軸足の安定感、そして体幹のしなやかさを最大限に生かした構成を行います。特に注目すべきは、スパイラルの途中で滑走方向やエッジを変化させる滑らかなトランジションです。これは観客に「止まらない流れ」を感じさせ、まるで氷上に描かれる筆の一筆書きのような印象を与えます。また、彼女のスパイラルは身体のラインが美しく、表現力と技術の融合が完璧なバランスで成立しています。
7-3. ネイサン・チェンの構成に見る戦略的コレオ
ネイサン・チェン選手は、ジャンプ構成で知られる一方、コレオシークエンスにも高い戦略性を持ち込んでいます。例えば、ジャンプ終了後の体勢をそのまま活かし、素早くスプレッド・イーグルやターンへと移行することで、体力を温存しながらも見せ場を作る技術が光ります。また、彼のシークエンスは常にリズムに合っており、音楽のビートを意識したタイミングで動きが切り替わるため、見ていてとてもテンポが良いのが特徴です。ジャンプの連続から一気にスプレッド・イーグル → ハイドロ風ターン → スパイラル風ポーズと流れるように続く構成は、コレオシークエンスであっても観客を飽きさせない演出になっています。
7-4. 坂本花織 vs 三原舞依:感情表現型とテクニカル型の違い
坂本花織選手と三原舞依選手は、いずれも日本を代表するスケーターですが、コレオシークエンスのアプローチが全く異なります。坂本選手は、感情の爆発を表現するような大胆な動作が多く、力強いスプレッド・イーグルやアームワークによって音楽の世界観を鮮やかに演出します。一方、三原選手は、流れるようなステップとターンを重視し、丁寧に構成されたスパイラルやエッジワークで、技術的に高い完成度を見せます。坂本選手の「爆発力」と三原選手の「滑らかさ」は、まさに感情型とテクニカル型の好対照。どちらもコレオシークエンスという自由な枠組みの中で、自分らしさを最大限に表現しています。
7-5. 海外勢の演出力:パパダキス&シゼロンのダンスに学ぶ(番外編)
コレオシークエンスの芸術的可能性を最大限に引き出している例として、アイスダンスの名コンビ、パパダキス&シゼロンが挙げられます。彼らは、シングルでは見られないほどの密度の高い振付とタイミングの精度で、観る者の心を一瞬で引き込むような演出力を発揮します。特に注目したいのは、音楽の「空白」部分でさえ緊張感を保ち、ポーズひとつにまで意味を持たせる動きです。これによって、一連の動作がすべて物語の一部として機能しており、まるで舞台作品を見ているような気分になります。シングルスケーターにとっても、「間」を恐れず演技に深みを出す構成力は大いに参考になる要素といえるでしょう。
8. コレオシークエンスを観るポイント
8-1. 観客目線で注目したい「動きと音楽の一体感」
フィギュアスケートのコレオシークエンスを観るとき、まず注目してほしいのが「動きと音楽の一体感」だよ。この要素は、選手が自分の感情や物語を「全身を使って表現する」ためのとっておきの時間なんだ。決まったレベルがなくて、ジャッジは演技の美しさや表現力、そして音楽との調和を見て評価するよ。
たとえば羽生結弦選手の「ハイドロブレーディング」や、荒川静香選手の「レイバック・イナ・バウアー」は、音楽の流れに合わせて体を低く沈めたり反らせたりしながら、まるで曲の一部のように滑っているでしょ?あれがまさに動きと音楽がぴったり重なっている瞬間なんだ。だから、観るときは「この動きは音楽に合ってるかな?リズムとズレてないかな?」と意識してみよう。それだけで、コレオシークエンスがグッと面白くなるよ。
8-2. どこから始まってどこで終わった?見抜くコツ
実はコレオシークエンスって、見てるだけだと「いつ始まって、いつ終わったの?」って思うことがあるよね。でもちょっとしたコツを覚えれば、ちゃんと見抜けるようになるんだよ。
まず、コレオシークエンスは技術要素としてカウントされる特別な動きのかたまり。ジャンプやスピンも入るけど、レベル判定はなくてGOE(出来栄え点)でだけ評価されるんだ。そして、シークエンスの始まりは最初のスケーティング動作。テクニカルパネルが「ここからコレオね」と判断した瞬間からスタートするよ。
終わりはちょっと難しいけど、選手が次の要素の準備に入ったところが目安になるの。たとえば2回転以上のジャンプを入れた場合、それを飛んだ時点でコレオは終了。また、スピンやステップに入る準備動作を始めたら「コレオの終わり」と判断されるんだよ。演技をじっと観て、「このジャンプがラストかな?」「あ、次のスピンに向かってる!」と予想してみてね。
8-3. 感動するコレオには理由がある!GOE加点のヒント
「なんだか胸が熱くなった」「涙が出そうだった」――そんな風に感動するコレオシークエンスには、ちゃんと理由があるんだよ。それはジャッジも同じで、そういう演技にはGOE(出来栄え点)で高く評価をつけてくれるの。
たとえば、音楽のクライマックスでスプレッド・イーグルを広げたまま滑り抜ける演技や、スパイラルで遠くを見るような視線を送るだけでも印象は全然違うよね。選手が「物語を語っている」と感じさせてくれると、GOEはどんどん加点されていくよ。
さらに動きの幅広さ、身体の柔軟性、空間の使い方なんかも、加点のヒントになるよ。「手の動きがきれいだったな」「氷の上を大きく使っていたな」と思ったら、それはGOEでプラスされているかもしれない。技そのものだけじゃなくて、どう見せるかが大事ってことなんだね。
8-4 まとめ
コレオシークエンスは、技術点よりも表現力が問われる特別な時間。観客としては、音楽との一体感・始まりと終わりの見極め・感動の理由に注目すると、もっとフィギュアスケートを楽しめるようになるよ。選手の個性がいちばんキラキラする時間だから、ぜひ目をこらして観てみてね。
9. まとめ
9-1. 点数以上に大切な“印象美”のカギ
コレオグラフィック・シークェンス(通称「コレオ」)は、技術点の積み上げを競う中でも、演技全体の“印象”や芸術性を際立たせる重要な役割を担っています。フィギュアスケートでは、どれだけ難易度の高い技をこなしても、それが観客や審判の心に残る表現でなければ高い評価にはつながりません。
そんな中で、固定された基礎点にGOE(出来栄え点)で評価されるコレオは、選手の世界観やストーリー性を濃く伝えるチャンスの場なのです。荒川静香選手のイナ・バウアーや、羽生結弦選手のハイドロブレーディングが強く印象に残っているように、演技の美しさや滑りの滑らかさを直接感じられるパートとして観客に愛されています。単なる「点数稼ぎ」ではない、記憶に残る演技の要として、コレオの存在はますます重要になっています。
9-2. 初心者でも楽しめる「コレオ」の見方とは
フィギュアスケートに詳しくない人でも、コレオを見ることで演技の魅力を直感的に楽しむことができます。その理由は、ジャンプやスピンなどの難易度に関係なく、表現力や選手の個性がストレートに伝わってくる時間帯だからです。たとえば、アラベスクスパイラルでゆったりと滑る姿や、イーグルで大きなカーブを描く姿などは、見ているだけで「美しい」と感じられますよね。
また、「この動き、前にも見た!」と気づくことができると、演技を見るのがもっと楽しくなります。羽生結弦選手の低い体勢で滑るハイドロブレーディング、荒川静香選手の背中を反らせたイナ・バウアーなどは、誰もが知る“代名詞”のような動きです。こうした「あ、この選手らしいな」と思える瞬間を探すことが、コレオの面白さでもあります。
9-3. 今後の注目選手と演技の見どころ
これからのシーズンでコレオが注目される理由のひとつは、表現力に秀でた若手選手の台頭です。例えば、島田麻央選手は、まだ若いながらも柔軟性と感情表現が豊かで、すでに多彩なスパイラルやステップを取り入れた演技で観客を魅了しています。
また、吉田陽菜選手も、演技構成点を意識したメリハリのある構成でコレオを効果的に使っており、将来が楽しみな存在です。今後は、技術力だけでなく「どれだけ感情を伝えられるか」がますます問われるようになるでしょう。シニアのフリープログラムにおいては、どのタイミングでどんな構成を盛り込むかが勝負の鍵にもなります。
選手それぞれの工夫や独自性が発揮されるのがコレオシークエンス。だからこそ、今後の大会では「どんな演出が飛び出すのか」「どんな感情がこめられているのか」を意識して見てみると、より深く楽しめますよ。